読書録ユトリ

主に小説・漫画の感想を綴っていくブログ。

【レビュー】朝井リョウさん初のエッセイ本「時をかけるゆとり」の感想!

今回、ご紹介するのは、朝井リョウさんの「時をかけるゆとり」だ。

 

朝井リョウさんと言えば、桐島、部活やめるってよのイメージが強い。
第22回小説すばる新人賞を受賞したこの作品では、バレー部の桐島を取り巻く高校生の姿を描いて、話題にもなった。


私は、この作品を、最初は映画で知ったクチである。主人公を神木隆之介さんが演じていて、冒頭から最後まで、飽きる事なく鑑賞する事ができて、久々に良い映画を観たなぁと思ったものである。その影響で、原作にも手を出したが、予想とは違って、「なんじゃこりゃ」と感じた。読みづらいのである。現代語がバリバリすぎて、会話文なのか、文章なのか、よく分からない表現もあったりで、アホな私には理解できなかった。この原作を基にして、あの素晴らしい映画を作った監督は、本気で尊敬するぐらいである。

 

という訳で、正直、朝井リョウさんのイメージはあまり良くなかった。
所詮、話題性だけで選ばれた受賞者でしょ….と謎の上から目線で見ていたのだが、この「時をかけるゆとり」という本を読んで、その負のイメージは払拭された。めちゃくちゃ面白いのである。「朝井リョウさんすげぇ、マジハンパネエ」と、私も負けじと現代語バリバリで、感心した。

 

「時をかけるゆとり」とは

就職活動生の群像『何者』で戦後最年少の直木賞受賞者となった著者。初エッセイ集では天与の観察眼を縦横無尽に駆使し、上京の日々、バイト、夏休み、就活そして社会人生活について綴る。「ゆとり世代」が「ゆとり世代」を見た、切なさとおかしみが炸裂する23編。(背表紙より引用)


そう、これは小説ではなくて、エッセイ本だ。
このエッセイ本を何故ここまでオススメするかというと、めちゃくちゃユーモア溢れているからである。直木賞を受賞した作家だからと思って、固い印象があるかもしれないが、朝井リョウさんの笑いのセンスが炸裂している為、面白い。思わず笑ってしまうシーンもかなりある。

 

主に朝井リョウさんの学生時代の頃の話が多い。
朝井リョウさんは早稲田大学を卒業したエリートなのに、その事を感じさせないほど、良い意味で、アホな話が満載だった。「黒タイツおじさんと遭遇する」とか「地獄の100キロハイク」とか、「ダイエットドキュメンタリーを撮る」とか、タイトルからして興味をそそらせるのだから凄い。肝心の中身もタイトルの斜め上をいく、予想以上のお馬鹿っぷり話だった。

 

文才があって、早稲田大学に入る頭脳があって、笑いのセンスが秀でている朝井リョウさんだからこそ、これだけ面白いエッセイ本が誕生したのである。多分、何気ない日常も、普通の人とは着眼点が違うから、面白おかしく捉える事が出来るのだと思う。その体験を「本」という形に昇華させる事ができるのも、また羨ましい。

 

また、在学中に「小説すばる新人賞」を受賞し、小説家としてやっていくのかと思われたのに、普通の人と同じように、就職活動をし、東宝に入社した朝井リョウさん。その自身の就職活動の体験も綴っているので、興味深かった。これは、実際に就職活動をされていた方なら、うんうんと、感情移入できる事間違いなしである。就職活動中の人なら誰でも感じる疑問や矛盾を、ちゃんと突っ込んでくれている。そして、何より笑える。直木賞も受賞した朝井リョウさんだが、皆と同じように苦労し、試行錯誤しながら、就職活動に明け暮れている話は、どこか胸を打つ感じだった。

 

最後に

もし、気になった方がいれば、ぜひ手に取って頂きたい。基本的に短編なので、通学中や通勤中にオススメである。終わり。