読書録ユトリ

主に小説・漫画の感想を綴っていくブログ。

【レビュー】刑事ものだけじゃない!横山秀夫「真相」の魅力

今回、ご紹介するのは、「真相」である。

 

作者はあの横山秀夫さん。
横山秀夫さんといえば、「陰の季節」や「クライマーず・ハイ」、「64」など、その原作の面白さからドラマ化映画化される事が多く、サスペンス・ミステリー作家としての絶対的な地位を確立している凄腕の小説家だ。

 

横山秀夫さんは、大学卒業後に、記者として約12年間勤務していたそうで、その時に培われた経験が、小説家として、発揮されているのだろう。小説としての構成力や文章力には卓越したものがあり、あまり読書に馴染みのない人も、ハマってしまう。実際、その原作を基にしたドラマや映画が次々とヒットするのだから、それだけ横山秀夫さんの書くストーリーに心を動かされる人が多いという事だろう。

 

とにかく、私が何より言いたいのは、横山秀夫さんの書く「刑事もの」には、安定感があるという事である。
基本的に短編が中心なのだが、その短い文章の中で、警察内部の実情や葛藤が、これでもかと緻密に表現されているのである。読者をあっと驚かせる仕掛けがある事も多く、最後の最後まで、気を抜かずに楽しませてくれる。

 

「真相」の魅力

犯人逮捕は事件の終わりではない。そこから始まるもうひとつのドラマがある。―息子を殺された男が、犯人の自供によって知る息子の別の顔「真相」、選挙に出馬した男の、絶対に当選しなければならない理由「18番ホール」など、事件の奥に隠された個人対個人の物語を5編収録。人間の心理・心情を鋭く描いた傑作短編集。(背表紙より引用)

 

この小説には、「真相」「18番ホール」「不眠」「花輪の海」「他人の家」という5篇が収録されている。

 

そのタイトルを見ての通り、全くベクトルの違う話が収められている。
普通は、短編小説というと、どれか微妙な話もありそうなものだが、この「真相」という小説に限っては、そんな事はない。全て面白いのだから驚きである。

 

表題でもある「真相」は、税理士を営む篠田が主人公。
息子を殺されたという過去をもつ人物なのだが、当時未解決だったその事件の犯人が捕まったというところから、物語は始まる。そして、犯人の自供から、次々と、篠田も知らなかった息子の本性が分かってくる….という話である。

 

これがまた、面白い。とにかく凄い。
息子を失った悲しみ、次々と明らかになる新事実、その事実によって揺れ動く家族の心情、そいうったものが、突き刺さってくるよう話だった。ネタバレは避けるので、ラストは言えないが、個人的には、これは色々と考えながら読んで頂きたい話だった。

 

他にも、「不眠」という話もかなり印象に残った。
リストラされた中年男性が主人公なのだが、不眠症の症状といい、ハローワークで失業保険を受給しにいっているなど、今の私とほぼ同じ状況だったので、めちゃくちゃ感情移入できたのである。ラストはまさかの展開だったし、もしかしたら、これが1番好きな話だったかもしれない。

 

最後に

読んで損はなし。読書好きの人なら間違いなく気に入ると思う。
どこの本屋に行っても、横山秀夫さんの小説は目立つところに置かれているし、それだけ売れているという事なのだろう。本屋大賞などでも、毎回のようにランク入りしているし、その人気ぶりは納得だ。通勤中、通学中に暇を持て余している方は、ぜひ読んでみてはいかがでしょうか。終わり。