読書録ユトリ

主に小説・漫画の感想を綴っていくブログ。

【レビュー】結婚にまつわる短編集!貫井徳郎「崩れる」の感想

今回、ご紹介するのは、「崩れる」である。

 

作家は貫井徳郎さん。早稲田大学を卒業された秀才で、不動産会社を退職後に、小説家としてデビューされた方だ。貫井徳郎さんを一躍有名にしたのは、その不動産会社を退職した失業期間中に執筆した「慟哭」である。

 

 

あの北村薫さんが「題は『慟哭』書き振りは《練達》読み終えてみれば《仰天》」というコメントを寄せた事がきっかけとなり、この作品はデビュー作ながら50万部以上を売り上げるヒット作となる。


「慟哭」は、巧みな伏線に構成、ハラハラする展開、そして前評判通りのラストといい、ミステリーとして、非常に読み応えのある作品だった。

 

貫井徳郎さんといえば、他にも「乱反射」「天使の屍」といった、社会性のある作品のイメージが強いが、実はユーモアな作品も手がけている。ただ、今回、ご紹介する「崩れる」は、ジャンルで区別するのは難しい作品かもしれない。

 

「崩れる」のあらすじや感想

仕事もしない無責任な夫と身勝手な息子にストレスを抱えていた芳恵。ついに我慢の限界に達し、取った行動は…(「崩れる」)。30代独身を貫いていた翻訳家の聖美。ある日高校の同級生だった真砂子から結婚報告の電話があり、お祝いの食事会に招待されるが…(「憑かれる」)。家族崩壊、ストーカー、DV、公園デビューなど、現代の社会問題を「結婚」というテーマで描き出す、狂気と企みに満ちた8つの傑作ミステリ短編集。(背表紙より引用)

 

この小説のテーマはずばり「結婚」である。
8つの短編は、全て結婚にまつわる話で、ミステリーもあれば、少しユーモアのあるものもあったりと、それぞれ趣の異なる話が収められている。

 

表題作の「崩れる」は、貫井徳郎さん自らあとがきで述べているように、難産の末に、掲載された作品との事。長年ストレスを抱え続けていた妻が取った驚くべき行動とは.....というあらすじなのだが、確かにその熱量というか、貫井徳郎さんの魅力が詰まった作品に思える。

 

貫井徳郎さんの最大の持ち味といえば、やはり読者をミスリードさせる巧みな構成だと思っている。注意して読んでいても、騙されてしまう痛快さがあるのだ。この「崩れる」という小説の中でも、その手法は存分に発揮されている。

 

まさに小説版「世にも奇妙な物語」といったところだろうか。ラストでは、良い意味で裏切られる展開が待ち受けているのである。

 

私が特にお気に入りなのは、「誘われる」という短編だ。
公園デビューをする母親の話が描かれているのだが、読んでいてどんどん背筋が寒くなるような感じがして、ラストに1番衝撃を受けた作品である。「長谷川杏子」「坂井みどり」という人物が交互に、話を進めていく展開になるのだが、視点によって、物語はこうも変わるのかと、衝撃を受ける作品だ。この交互に主役が変わっていく展開は、まさに「慟哭」を既読の方なら、どんなものかはピンと来ていただけるかもしれない。

 

8篇全てが面白い作品で、日常に潜むリアルな恐怖が描かれているように思う。

 

最後に

社会人の方には非常にオススメしたい本。
意外にも、乃木坂46齋藤飛鳥さんというアイドルが、この本をお気に入りだと公言された事もあり、もしかしたら、それ経由で、この「崩れる」を知った方もいるかもしれない。可愛らしいアイドルが、この暗澹たるした短編集をお気に入りだと挙げているのも、なかなかにビックリである。
ただ、それだけ面白い作品である事は間違いない。気になる方は、ぜひ読んでみて下さい。終わり。